まだJazzのジャの字も知らなかった、高校生の時分、小さな喫茶店に入り浸っていた。
入り浸ると言っても、お金などそれ程自由に使えるほど持っていなかったので、週2回コーヒー一杯でねばる程度。
いつ行っても空いていて、マスターは何時も暇そうに煙草をふかしていた。
近くには、喫茶店が数軒有ったが、ここに出入りしていた同級生は見た事が無い。
隣の女子高の生徒は、Aという店、オイラの学校の生徒はBと言う店と、何故か住み分けが出来ていて、互いに違う店に行こうものならクラスで問題に成った。
オイラは、当時より単独行動だったので、一人で裏通りの小さな店で暇を持て余して居た。
小さな店の割に、しっかりとしたオーディオ機器と結構な枚数のレコードが有った。
出入りし始めてしばらくしたある日、「何か聴きたいレコードはあるか?」とマスターが棚を顎でしゃくった。
棚を物色しても、見た事も聞いた事も無いレコードばかりだった。
「マスター、これって全部Jazz?」
「そうだよ。」
「俺、全然解らんから、今日のマスターのお勧めをかけてよ。」
そんなやり取りで、マスターがかけてくれたのがこの一枚。
何だか衝撃的で、すっかり気に入ってお金を溜めて買った、初めてのJazzのレコードだった。
無口なマスターと無口な客。
半年くらいそんな感じが続き、卒業を控えて、何かと忙しく成り(卒業の単位が不足していた為に補習を受けていた)しばらく顔を出さないでいたうちに、小さな店の看板が変わっていた。

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